研究会活動
第7回研究会「国立公園の国際化を考える」【2015年5月25日(月)】
昨今、我が国の国立公園には日本人だけではなく外国からも多くの人々が訪れます。一方で外国人目線から日本の国立公園はどのように映るのか、何が魅力で、どのような点が問題で、そしてどのような改善策が必要なのか、といった議論はあまりされてきていませんでした。今後は訪日外国人観光客数の増加に伴い、国立公園への外国人来訪者の増加も見込まれます。そこで今回は我が国の「国立公園の国際化・グローバル化対応」を切り口に情報共有・意見交換をしたいと思います。

発表1「外国人から見た日本の国立公園~日本観光情報サイトjapan-guide.comを通して~」

 松本 恵利子氏(エクスポート・ジャパン株式会社 ジャパンガイドチームリーダー)

【ジャパンガイドとは/ジャパンガイドと自然/国立公園の魅力/国立公園への期待】

ジャパンガイドは、外国人に日本の情報を正確に伝えることを目的として、1996年に立ち上げられた。 “シンプルさ”“客観性”“即時性”“誠実性”を特徴としており、圧倒的な情報量や、行きたい場所に必ずたどり着ける情報の質の高さ等が評価を受けている。「日本各地の多種多様な魅力をありのままの姿で伝えること」をポリシーとするジャパンガイドには、当然自然に関する情報も多く掲載されており、国立公園については、日本の国立公園が持つ魅力と25の国立公園リストを紹介している。ジャパンガイドの利用者情報を基に、外国人観光客の満足度が高い観光地を集計すると、国立公園をはじめとする日本の自然に対する満足度が非常に高いことが分かる。外国人観光客は、日本の国立公園が持つ“多様性”“組み合わせ”“精神性”“歴史文化”に魅力を感じていると考えられる。これらは日本の国立公園の魅力として一般的に認知されているものと変わらないが、当たり前と思えるような魅力こそが外国人をひきつけていることが分かる。一方、国立公園についての情報発信はまだまだ不十分であり、ジャパンガイド全体から見ても、国立公園ページのプレビュー数はかなり少なくなっている。日本の国立公園は外国人をひきつける十分な魅力を持っており、今後、質の高い情報提供や多言語対応等を進めることで、外国人観光客の国立公園利用は増加していくのではないか。


発表2「外国人から見た日本の国立公園~中国の視点から~」

 孔 怡氏(株式会社 天怡 代表)

【訪日中国人観光客数の増加/中国人の視点に立ったPR/国立公園における中国人のマナー】

観光ビザ発給要件の緩和や円安を要因として、訪日中国人は増加するとともに、来訪形態や時期の多様化、リピーターの増加が見られはじめている。しかし、2014年に海外旅行を行った中国人が1億人であるのに対し、そのうち訪日者は260万人に過ぎない。中国人をより日本に呼び込むためには、中国人の視点に立ったPRが重要である。具体的には、わかりやすい中国語の案内が必要であるし、PRする場合には市区町村単位ではなく、より広域的な連携を念頭にいれることも不可欠である。地域間の距離やアクセスについて知ってもらうことで、一カ所の滞在ではなく日本各地に旅行してもらうことができる。国立公園への誘致についても同様である。国立公園は自然だけでなく歴史や文化も同時に楽しむことができる。滞在期間に合わせてどのような楽しみ方ができるかを伝えなければならない。中国人観光客のマナーは世界的に問題視されているが、中国政府は罰則等の強化に取り組んでいる。同様に日本も受け入れる側として、観光客がマナーの悪い行動をとらせないように、温泉の入り方など日本のルールを説明していく必要がある。


発表3「海外の国立公園の外国人対応策について」

 高山 傑氏(株式会社 スピリット・オブ・ジャパン・トラベル 代表取締役/アジアエコツーリズムネットワーク(AEN)会長)

【これからの観光重要ポイント(5大課題)/①飛躍的な伸びの管理/②気候変動/③貧困撲滅/④環境保全/⑤観光客の健康・衛生・安全性の追求】

国連世界観光機関(UNWTO)及び国連環境計画(UNEP)によると、これからの観光を考える上では、①飛躍的な伸びの管理、②気候変動、③貧困撲滅、④環境保全、⑤観光客の健康・衛生・安全性の追求、が重要なポイントとされている。以前は、単に国立公園に行くというだけで高いステータスとなっていたが、国立公園へのアクセスが容易になった現在は、より中身の濃い体験の提供が求められている。そのため、これら5つのポイントは、国立公園の観光を考える場合にも同様に重要である。国立公園の利用者は、観光客が少なく癒される空間を求めている。海外の国立公園では、グループの規模と予算によって宿でゾーニングをし、フィルターをかけることで対応している事例がある。気候変動への対応策としてカーボンオフセットの仕組みを設けることも、利用者の高評価につながる。コスタリカでは、国策としてカーボンオフセット制度に取り組んでいる。貧困撲滅については、世界的にみると、国立公園エリアと貧困層居住区が重なることが多いことから、地元雇用の徹底により、地元へ経済効果を還元することができる。環境保全については、多くの自然保護地区で自然保護に必要な経費が不十分となっていることから、持続可能な観光を実践し、事業収益の一部を環境保全に充てている事業者と連携することが必要になる。観光客の安全性等については、世界の国立公園では、インフラや安全保障体制が日本ほど充実していないことも多いことから、旅行会社は現地との連絡体制を確立するほか、無理のない行程を組むことも求められている。


発表4「国立公園における外国人による利用の現状と課題」

 トム ジョーンズ氏(明治大学専門職大学院ガバナンス学科 特任准教授)

【国立公園史の保護と利用/富士山夏季における外国人登山者の特徴/弾丸登山/協力金への支払い意思】

国立公園は自然保護と利用の両立という目標が掲げられており、利用の面においては、公布当時から目的の一つとして、外国人観光客を増やし外貨を稼ぐことが期待されていた。富士山を含む富士箱根伊豆国立公園は、外国人観光客が最も多い国立公園である。外国人利用者の動向や意識を把握するため、2008年から山梨県側の五合目で外国人を対象としたアンケート調査を実施している。この調査結果によると、近年、欧米だけではなく、アジアからの観光客割合が増加していることが明らかになっている。外国人の富士登山における課題の一つは、五合目を夜中に出発し、山小屋に泊まらず、夜通しで一気に山頂を目指すいわゆる弾丸登山と呼ばれる登山形態が多くを占めることである。山小屋に宿泊しない理由は、旅費の節約や言葉の壁による予約の困難、情報不足などが挙げられる。もう一つは、協力金に対する認知度の低さ、情報提供の不足である。今後、欧米人以外の外国人観光客増加の加速が予想される。そのため、多言語による更なる情報提供と相互理解、そして将来的には目的に応じた利用の分散も含めた検討が必要であろう。


議論

コーディネーター:熊谷 嘉隆氏(国際教養大学アジア地域研究連携機構 機構長/教授)

1)受け入れ体制の構築

  • ・ターゲットに合わせた情報発信やサービスの提供方法を検討するにあたって、日本の国立公園を訪れる外国人の利用者数や利用者の属性、動向などを正確にモニタリングすることが非常に重要である。
  • ・国立公園は受け入れ側として、インバウンドにどのような効果を期待するのか、何をしていきたいのかを明確にする必要がある。
  • ・インバウンドの受け入れに対応できないという拒否感を持つ関係者に対して、どのように意識を転換させていくかを検討しなければならない。
  • ・多様な利用者が国立公園を楽しむためには、公園内をエリアごとの特徴で区分し、外国人利用者の体験したいことと公園の提供するサービスとがマッチングできるよう整理が必要である。
  • ・外国人利用者の増加は、経済的な効果だけでなく、負のインパクトも同時に引き起こす可能性があるということをあらかじめ地域内で十分に認識しなければならない。

2)施設の整備

  • ・国立公園内にあるビジターセンターは、自然案内に終始するだけでなく、国立公園全体、観光地全体の情報を提供するなど、外国人利用者に対応する施設として今以上に活用する方法を検討すべきである。
  • ・自然地域のトイレは、現状これ以上の利用者を受け入れるキャパシティはなく、外国人利用者の増加を期待するのであれば、トイレなどの整備・技術の向上についても考えなければならない。
  • ・施設の使用方法やマナー等については、外国人利用者の環境に合わせるのではなく、日本ならではの使用方法を伝えていけば良いのではないか。
  • ・言語環境の整備は、安全性や快適性を担保するために必要であるが、言語は外国人利用者が非日常を味わうために重要な役割を果たしているため、観光の価値を高めるという視点とは分けて議論しなければならない。

(文責:JTBF)