研究会活動
第17回研究会「自然公園の保護と利用におけるガイドの役割を考える」【2023年2月15日(水)】
令和3年の自然公園法改正により自然体験活動促進計画制度が新設され、地域の自治体や事業者が積極的・主体的に国立公園等の自然の価値を活かしていくことが期待されています。その際、地域の案内役を担うガイドの存在は重要です。今回の研究会では、国立公園等で活動するガイドに焦点をあて、自然公園の保護と利用へのこれまでの関わり方、今後の役割などについて考えていきます。

話題提供1「ガイドの役割(棚卸し)」

寺崎竜雄(公益財団法人日本交通公社 常務理事)

ガイドの役割には、高級案内人(ロケーター)、環境教育や観光教育、自然の中でも安心や安全を確保して自然とのふれあい方や自然の面白さを伝えること、着地型商品としてその場所だけのツアーを提案すること、地域への来訪者数の増大、地元産業への経済波及効果、観光活用による地域文化の継承などがある。特に、地域資源の観光経済価値のコントロールに関しては、その価値を高めること(ガイダンスによる付加価値の創出)、下げないこと(自主ルールや行動内容の制限等)、もとに戻すこと(登山道整備ツアー等)が期待される。資源保全とガイドの関わり方は5段階に整理される。①利用する立場として資源に対して極力負荷を与えないこと。②現地の状況をモニタリングし、気づいた点を管理者に報告すること。③行政やNPOなどの自然再生事業・補修イベントなどに日当をもらって仕事として参加すること。④行政やNPOなどの自然再生事業・補修イベントなどにボランティアで参加すること。⑤行政やNPOなどの自然再生事業・補修イベントなどに受益者負担の考え方としてマストで参加すること。地域資源を核とした地域社会モデルにおいてガイドは、ガイダンスによって地域資源に対して付加的な観光経済価値をもたらす存在である。

話題提供2「日光国立公園の保護と利用におけるガイドの役割」

安倍輝行 氏(奥日光小西ホテル コンシェルジュ・ネイチャーガイド)

ネイチャーガイドとしてスノーシューのツアーや森歩きを行う他、地域情報の集約と各所への発信、個人のブログでの自然・災害・歩道等に関する情報発信等を行っている。国立公園の保護と利用において、ガイドは自然公園法と利用者の間に位置づけられる存在だと感じている。利用者から金銭を頂くと同時に、ガイドを通して自然公園法に対する利用者の理解度を高め、興味を喚起する。さらに、管理者や行政側に対して利用者の動向を伝えていく。逆に、管理者や行政からはガイドが現場に出るのに必要十分な情報や育成支援が欲しい。なお、国立公園の利用者とは、来訪者だけでなく地域の住民や事業者も含まれる。また、ガイドは、単なる案内だけでなく情報の収集や整理、提供にも長けていることから、地域の観光の要となる存在になり得る。加えて、高齢化が顕著に進み、人の生活がほぼ無くなってきている日光地域では、若い人材というのもガイドの果たす役割の1つとなる。最後に、国立公園をより良く保つためには現場にいる人々の努力だけではなく、公園を訪れる人々が良いリピーターになることが必要。その場所が国立公園であることを知らない人が多く訪れたとしても恐らく、国立公園は良くはならない。ガイドツアーは、訪れる人々が国立公園の良いリピーターとなるための仕掛けである。

話題提供3「草原の守り人 自然体験活動ガイドの役割「ASO ACTIVE NATURE GUIDE あそBe隊」の活動」

薄井良文 氏(WakuWakuOFFICEあそBe隊 隊長)

阿蘇では、国立公園満喫プロジェクトの中で、訪日外国人などの観光客誘致が進められている。人の手が加わって守られている草原は絶対に入ってはいけないというわけではない。ローインパクトの中で、自然だけでなく人々の暮らし、生活文化をいかにガイドが伝えていくか。その対価を頂くことによって、そうしたことを利用者に感じてもらうことを意識している。また、利用者のニーズはどこにあるのかをアクティビティの中で感じながら、そこにフォーカスしていくことも必要。利用者が旅行先で費やせる時間や体験できる活動には限りがあるため、一番伝えるべきことに絞った方が印象に残る。阿蘇で言えば草原、あか牛、人の生活、守る、といったことがキーワードとなる。また、「何もない」ということも一つのテーマである。地元の人はよく「阿蘇に来ても何もない」と言うが、逆に「何もないからおいで」と言ってもらうように地元の人に伝えていくこともガイドの役割の一つと考える。

ディスカッション

コーディネーター:町田怜子氏(東京農業大学 教授)

1)国立公園の仕組みや法制度とのすり合わせ・自然体験活動促進計画も踏まえた展開

  • 阿蘇も含めて、ガイドには根っからの地元育ちの人は少なく、その場所が好きになって他所から来てガイドを始める人が多い。そうすると、よそ者扱いされる場面も出てくるが、例えば牧野組合との交渉では環境省職員が間に立って繋いでくれると話が円滑に進み非常にありがたい。地域内の多様なステークホルダーをまとめ、意見を調整し、合意形成を図る役割を誰が担うかに関しては、環境省、熊本県、阿蘇市、観光協会など複数の組織があり難しいが、いずれにしても行政が間に入ってもらえると安心できる。(薄井)
  • 「ガイド個人」ではなく「ガイド業」がどうあるべきかに、考え方、見方をシフトしたらどうだろう。その上でガイド業という業態を規定する何らかのものが必要な時期に来ているのではないか。ガイドはガイド会社に所属する社員と捉えれば、一つの企業が地域の中でどういった責任を果たすのかという考え方ができる。ガイドの育成・管理は企業内での業務となる。一人親方であっても、個人ではなく企業の社長という意識で地域に入っていけば感覚が変わるだろう。ボランティアとプロのガイドの違いは投資があるかどうかだと聞いたことがある。会社であれば、ガイドを雇用して育てることは先行投資である。ガイド個人ではなく、ガイド会社という視点に立つと、自ずとガイドに対する見方も大きく変わる。(寺崎)


2)ガイドツアーの料金設定・適正価格・高付加価値化

  • 多くの人に良質なガイドツアーを経験して欲しいと思う一方、一般のサラリーマン家庭にとっては価格的に厳しいということも感じている。ガイドツアーは、ある一部の人は楽しめるようになっているが、市場として広く定着していないのは、何か根源的な問題があるのではないかと思う。(寺崎)
  • 日光地域には非常に多くの事業者がいるが、特にコロナ以降、どうすればお金を稼げるかばかりが考えられているように思う。単価が上がれば、参加できる方は限られてくる。しかし、そうしてガイドツアーに参加できなくなった層は国立公園の楽しさを知る機会が与えられなくなることは個人的には気がかりだ。国立公園は誰もが利用できることが前提の場所ではないのか。(安倍)
  • ガイドとしては、利用者がガイド中に安全に楽しめるだけではお金をもらうに値しないと考える。利用者が自分で楽しさを知り、自分で安全に歩き、楽しく帰っていく。そうしてその土地が好きになるから何度でも来たくなる。何度でも来れば、その土地を少しでも良く残していたい、自分のためにも残したいと思うからこそ良いリピーターになっていく。このきっかけを作るためには、例えば、自然ふれあい体験活動のように、早朝の無料散策や500円ほどのちょっとしたツアーを提供するなどの入口が重要。事業者としては収益がなく辛いが、恐らく地域としては必要なこと。ただし、その線引きについては悩んでいる。稼ぎたいけれどもそれだけではないという点がジレンマである。(安倍)
  • 価格を上げて高付加価値化することだけになると、国立公園に入るのは富裕層ばかりになってしまう。そうではなく、修学旅行なども含めていくつかの価格設定があって然るべきだと思う。ガイドの質に関しては、教育旅行のガイドであれば、阿蘇のカルデラの形成過程や草原維持とのつながりを順序立てて説明し、インタープリテーションすることが仕事となる。また、アクティビティをメインに来訪したお客さんには、解説よりも特別感やラクジュアリー感のあるものを提供し、活動が終わった後に、参加料金が草原保全につながっていると腑に落ちるようなガイディングを展開することだ。(薄井)


3)ガイドを守る仕組み

  • まず守ってほしいのは生活。ガイドになるまでには膨大な時間を費やさなければならないが、その間は収益にならない為、企業としては投資をしづらい。よって生活を営むのは厳しい。(安倍)
  • 最低限、ここからがガイドであるということを誰かが担保しなければ、新しく入ってきた人が胸を張って入りづらい。一方で、繁忙期だけやってきて地元ガイドと名乗る人もいるが、そうした人とそうでない人を分ける基準や仕組みが欲しいと思う。(安倍)


4)ガイドツアー中のリスク管理

  • WakuWakuOFFICEあそBe隊では、子どもたちが来ると自然と「隊長」と呼びたがる。そうしているうちに、保護者も「ほら、隊長の言うことを聞いて」と言うようになる。屋外の自然体験活動では、1つのパーティーの中にリーダーが絶対に必要。「隊長」と名乗ることで、このパーティーでは薄井がリーダーだということが自然と伝わるような手法を取っている。安全確保は一番大事なことの一つであるが、一方で、そこに意識が偏るとアクティビティ感、アドベンチャー感が無くなってつまらなくなる。アクティビティの楽しさとリスク管理とのバランスを上手くとることが重要であり、火山噴火や地震、風水害など自然災害の多い阿蘇で活動するガイドの重要な役割である。(薄井)


(文責:JTBF)