研究会活動
第5回研究会「ジオパーク・エコパークを考える」【2014年6月6日(金)】
ジオパークやエコパークに取り組む自治体が増加しているなかで、取組増加の要因を探りつつ、国立公園との関係や違い、魅力、楽しみ方、管理方法など、また、国内外の取組の現状について、情報共有・意見交換ができればと考えています。

発表1「ジオパークの概要と国内外の現状」

小泉 武栄氏(東京学芸大学 名誉教授/日本ジオパーク委員会 顧問)

【ジオパークの概念/ジオパークと自然公園/ジオパーク活動の歴史と現状/ジオパークの目的/ジオパークと世界遺産/今後の課題】

ジオパークとは科学的に見て貴重な地形・地質や景観として美しい地形・地質を生かした「大地の公園」である。ジオパークには、大地の上に育つ植生や人間の働きかけによって生まれた文化景観も含まれる。以上の点から、ジオパークの基本的な理念は、国立公園等の自然公園の理念と一致していると言え、実際にジオパークと国立公園の指定地は重なっている箇所が多い。ジオパークの萌芽は1990年代に見られ、日本では2008年に日本ジオパーク委員会が発足、2014年5月現在日本国内で世界ジオパークに6か所、日本ジオパークに33か所が認定されている。ジオパークの目的は、地形・地質や特異な生態系などを保全するとともに、それを研究や教育に生かし、さらにはツーリズムを通じて地域の持続的な発展に寄与することである。そのため、単に優れた自然があるだけではなく、それらを解説するための手段を備えていなければならない。ジオパークの魅力は頭を使って考えることにあり、この点が世界遺産との最大の違いと言える。国立公園等との共存共栄、ガイドの養成、地場産業の育成等が今後の課題である。


発表2「国立公園とジオパークの連携:島原半島ジオパークの例」

大野 希一氏(島原半島ジオパーク協議会事務局 専門員)

【島原半島ジオパーク/ジオパークという仕組みの考え方/ジオパークと国立公園とのかかわり/環境省と島原半島ジオパークの連携の実例~雲仙岳周辺に構築した登山道~/登山道の開通が招いた成果と問題点】

島原半島ジオパークは噴火とそこからの復興等、島原半島の人と生態系、地形・地質との関わりを楽しむ場として2008年に誕生した。ジオパークの3つの活動「保全」「教育」「活用」のうち、保全活動は全てのジオパーク活動の基盤になる重要なものであるが、保全よりも活用が重視される傾向が強い。自然公園法に基づく法的規制力を持った自然環境・自然遺産保護を行う国立公園=環境省と、地質まで含めた利活用範囲の拡大を行うジオパーク=地方自治体が連携することで、持続可能な発展活用が可能となる。島原半島ジオパークでは、環境省とハード面・ソフト面双方において連携しながらジオパークの整備を進めたことで、島原半島の自然環境を楽しむ仕組み作りが飛躍的に進歩した他、登山道の再整備による登山客の増加は地域の経済効果も生み出した。その反面、オーバーユースや、盗掘等の不法行為が見られるようになり、よりよいパトロール体制づくりが急務となっている。地域一丸となった登山道の管理体制構築、ジオパークを利用した環境教育による利用者モラル向上が求められている。


発表3「ユネスコエコパークの概要と国内外の現状」

酒井 暁子氏(横浜国立大学大学院環境情報研究院 准教授・日本MAB計画委員会 副委員長/事務局 代表)

【ユネスコエコパークとは/「人間と生物圏(MAB)」/エコパークと世界遺産/ゾーニング/エコパーク登録のメリット】

ユネスコエコパークとは、ユネスコが主催する政府間プログラム「人間と生物圏(MAB=Man and the Biosphere)」計画に基づく国際認証地域のことで、正式名称を「生物圏保存地域(BR=Biosphere Reserve)」と言う。同じくユネスコが管轄する世界遺産が保護を目的とした制度であるのに対し、自然と人間社会との共生を基本理念とするMABに基づくBRは、保護と利用の双方を重視し、持続可能社会を研究・実践・発信する場として位置づけられている。この二つの目的を果たすため、エコパークは自然保護を行う核心地域、環境教育などを行う緩衝地域、地域の社会発展・経済活動を行う移行地域の3つのゾーニングが必要となる。このうち移行地域でいかに持続的な取り組みを行うかが特に重要である。エコパークに登録をすることは、地域住民の誇りの醸成、地域のブラント価値向上、国際的な立場の獲得、環境教育の場としての活躍等のメリットにつながる。登録のためには地域ならではのストーリーを組み立てる必要があり、エコパークは自然と文化に根差した地域発展のためのプラットフォームの働きを果たす。


発表4「綾ユネスコエコパークの取り組み」

朱宮 丈晴氏(公益財団法人日本自然保護協会保護・研究部 部長)

【綾ユネスコエコパークの概要/エコパークブランドの魅力/観光客への見せ方と変化/保全管理方法/効果と課題】

綾ユネスコエコパークは2012年に誕生した国内5番目のユネスコエコパークである。綾の登録理由には、照葉樹林の北限に位置し、残存面積が日本最大であるという学術的理由と、有機栽培農業等、持続可能な地域づくりの取組が長年行われていること、「綾の照葉樹林プロジェクト」に基づく自然林の復元が図られているという地域の取組にまつわる理由とがある。エコパーク登録後、綾町役場内にはエコパークを担当する職員が各課に配置され、2週間に一度エコパーク関連ミーティングを行っている。エコパークに登録したからといって観光客や人口は顕著に増えるわけではないが、エコパーク登録により国際的な立場を獲得したことで、50年にわたる綾町の地道な取り組みを効果的に広く発信できるようになった。さらに、地域が持続可能な地域づくりを指標に将来の選択をすることができるようになったことは、エコパーク登録の最大の効果である。


議論

コーディネーター:阿部 宗広氏(一般財団法人自然公園財団 専務理事・日本ジオパーク委員会 委員)

会場のジオパーク・エコパーク関係者、環境省・林野庁職員も交え、ジオパーク・エコパーク・自然公園との関係等について議論を行った。

(文責:JTBF)