研究会活動
第4回研究会「自然公園の有料化・入場料を考える」【2013年9月19日(木)】
富士山の入山料で大きく報道もされているところでもあり、各山岳地や自然地域では費用の負担が問題になっています。そこで、今回のテーマは、「自然公園の有料化・入場料を考える」。これまで行われてきた手法や経済学的な視点、事例など、様々な視点から意見交換できればと考えております。

発表1「保護地域における有料化の展開と江戸時代富士登山の費用負担」

伊藤 太一氏(筑波大学大学院生命環境科学研究科 教授)

【アメリカの国立公園と日本の自然公園/アメリカでの国立公園有料化の展開/日本での有料化の歴史】

入園料は、出入り口が限定され、私有地が少なく、徴収コストを上回る利用が見込め、利用者が支払いを納得するというような条件を満たす場でないと徴収が難しいことから特定地区での徴収に限定されており、施設利用料・通行料などで徴収するケースが多い。アメリカの有料化の展開は、1915年のイエローストーンでの車の通行料徴収から始まる。通行料収入は1918年に一般財源に組み込まれたのち、90年代なってようやく80%を各公園で保留することが可能となった。日本では、江戸時代の富士登山において多様な有料化が進んでいた。時代が下ると、御師がコンセッションの役割を果たし、「登山切手」の形で富士登山に係る費用を一括支払いするシステムができあがっていった。また、管理・処理実績が営業権と一体化していたため、道の管理と遭難者対応もできていた。このように徴収された江戸からの登山者による支出が、富士山麓地域の雇用と経済発展を促し文化を育成した。


発表2「富士山の入山料とビジターコントロール」

吉田 正人氏(筑波大学大学院人間総合科学研究科 教授)

【富士山の世界遺産登録/富士山の入山料は何のため?/2013年夏の社会実験/入山料は入山規制につながるか?/ビジターコントロールの事例/では、入山規制はできないのか?】

2013年の富士山世界遺産登録に伴い、ICOMOSより、富士山五合目以上の登山道の環境収容力の研究に基づいたビジターコントロールについての報告が義務づけられた。入山料は一般的に、利用者の適正負担とビジターコントロールという2つの機能を有するとされる。富士山では2013年夏に、入山料として1000円を目途に協力を求める社会実験を行った。この実験では、入山料は任意ではなく全員が支払い、用途は環境保全に供されるのが妥当とする結果が得られたが、1000円ほどの入山料では入山者数の抑制効果は弱いことも明らかとなった。では、入山規制はできないのか。現在の30万人の登山者数を山小屋の収容力限界の20万人程度に下げるためには、山小屋を完全予約制としたり、弾丸登山抑止のために登山自体を予約制とする対策も考えられる。


発表3「富士山入山料の効果」

栗山 浩一氏(京都大学大学院農学研究科 教授)

【富士山入山料の試行/分析手法について/今年度の入山料試験導入の結果/今後の課題】

富士山の入山料の経済効果についてトラベルコスト法により分析を行った結果、世界遺産登録により富士登山者が3割増加すると仮定した場合、登山者数を抑制して現状の水準を維持するためには、入山料として7000円の徴収が必要、という結論になった。このように、入山料で抑制効果を得るには高額の徴収が必要だが実現は難しく、今年度試行した1000円の入山料では入山料収入としては一定の効果は期待できるが訪問者の抑制効果は弱い。一方、入山料とマイカー規制の効果について分析した結果、マイカー規制は収入源としては使えないものの、入山料よりも登山者抑制効果が高いことがわかった。ビジターコントロールのためには、入山料だけでなく、マイカー規制や混雑時の利用規制、ガイドによる誘導など他の対策と組み合わせた総合的な対策が必要である。


発表4「自然公園財団の事例」

阿部 宗広氏(一般財団法人自然公園財団 専務理事)

【自然公園財団の概要/自然公園財団設立の背景/自然公園財団の業務と財源】

昭和30~40年代に自然風景地の利用者が増加し、過剰利用による自然破壊が問題となり自然保護の動きが高まった。こうした事態を受けて出された昭和51年の「自然保護のための費用負担問題検討中間報告」において、破壊から守るための自然利用の制限・有料化は肯定される、国民のコンセンサスの範囲内で利用者負担と協力を求められうると認識すべきという見解が示された。この考え方が自然公園財団の下地となった。その後、自然公園利用者の増大に伴い公園美化に対応する必要が生じ、昭和54年に自然公園美化管理財団が設立された。これが今の自然公園財団である。主な事業は公園施設の管理維持・自然環境の保全管理・自然ふれあい活動・情報提供であり、駐車料金を施設利用環境整備協力金として徴収し、これを主な財源としている。この他の利用者負担としては、清掃協力費・トイレチップ収入費等、清掃活動補助金・請負費がある。支出の多くは各活動に伴う人件費に充てられている。


議論

コーディネーター:愛甲 哲也氏(北海道大学大学院農学研究院 准教授)

アメリカの入園料徴収の方法、ビジターコントロールの意義、望ましい徴収方法等について質疑応答がなされた。

(文責:JTBF)