発表1「北海道における自然公園行政の現状と課題」
小林 隆彦氏(北海道環境生活部環境局生物多様性保全課 自然公園担当課長)
【自然公園の指定状況/自然公園を取り巻く近年の大きな2つの出来事/北海道の観光戦略】
北海道は、23ヶ所の自然公園(国立公園6、国定公園5、道立自然公園12)が指定されており、毎年多くの観光客が訪れている。自然公園は北海道観光の大きな柱でもあり、利用施設は安心安全の確保はもとより、快適に自然環境を堪能するための重要な位置づけであると考えている。近年、自然公園を取り巻く大きな2つの出来事があった。一つ目は平成17年以降の三位一体改革であり、自然公園における国と地方自治体の役割分担が明確化された。国立公園の保護上及び利用上重要な公園事業に係る整備は国が直轄で実施することになった結果、北海道では国立公園内での新たな施設整備と既存施設の再整備を凍結した。そして、残念ながら現在までその状態が続き、老朽化が進んでいる。三位一体改革を含めた国の政策転換に対して、北海道として将来を見越して的確な対応ができなかったことが原因だと個人的には考えており、北海道の自然公園行政として非常に大きな課題となっている。二つ目は平成28年度以降の観光戦略である。阿寒摩周国立公園では「国立公園満喫プロジェクト」に基づき、さらに北海道の観光戦略のベースとなる「北海道観光のくにづくり行動計画」や「北海道インバウンド加速化プロジェクト」に基づき、インバウンド受入の環境整備が進められている。多言語化にあたっては、地域に根付いている文化も織り交ぜて発信することで自然環境に対しての理解もより深まると考えており、アイヌ語の併記や地域の文化の発信なども合わせた表記等の工夫を行っている。平成27年からは満喫プロジェクト等北海道の通常予算以外の予算を、平成30年は北海道の通常予算を確保することができ、回復の兆しが見えてきた。
発表2「神奈川県における自然公園の管理 -主に丹沢大山区域について-」
山根 正伸氏(神奈川県環境農政局自然環境保全センター 研究企画部長兼自然保護公園部長)
【神奈川県自然環境保全センター紹介/神奈川県の自然公園の概要/丹沢大山区域の公園管理】
県下には県の西側の山地域に国立公園1つ、国定公園1つ、県立公園4つの計6箇所の自然公園が設置され、県が管理している自然公園歩道は全体で76路線、総延長で約400kmに達する。公園利用者数の推移をみると、箱根地区及び丹沢大山区域は横ばい、真鶴・奧湯河原は減少傾向、対して陣馬相模湖は登山利用を中心とした増加が著しい。自然公園行政組織については、環境農政局緑政部自然保護課を筆頭に関係3課の出先業務を担っており、自然再生計画の企画調整は自然環境保全センターの主管業務。公園管理関係予算は、約半分が水源税の特別会計を主な財源とする丹沢大山保全再生対策事業が占める。丹沢大山国定公園をとりまく環境は、集中化・強い利用圧の持続、利用の多様化、オーバーユース・施設の老朽化、自然環境劣化の多様化・複雑化、シカの過増加による影響が持続。このような状況に対して、県は県民等と連携した大規模調査に基づく戦略的な自然再生事業を推進、成果が出始めているがまだ限定的という段階にある。今後、県民理解・協働を促進するための取組成果の普及啓発、ササ枯れや気候変動等の新たな問題の顕在化に対して現状把握及び対策を検討した計画のバージョンアップ、自然再生には長期を要するため、人材育成・世代交代、予算等を確保して計画を継続・継承していくことが重要である。公園施設管理では、高齢者や外国人利用者の増加、特定路線への利用集中の加速等に対してモニタリングを通じて情報収集を行い計画的な管理を進めること、事故防止に関して適正な施設管理と併せて警察など関係機関と連携して取り組むことが必要である。
発表3「京都府における自然環境行政の現状(京都丹波高原国定公園の指定とビジターセンター開設)」
森田 敏夫氏(京都府環境部自然環境保全課 自然公園担当)
【京都府の自然公園の概要/京都府の自然公園区域の拡大/京都丹波高原国定公園の公園管理】
京都府の自然公園行政は環境部自然環境保全課が担う。京都府では野性鳥獣対策は農林水産部で行っており、自然環境保全課では、外来生物や希少生物対策の他、自然公園8箇所(国立公園1、国定公園4、府立公園3)及び都市公園1ヶ所を所管している。平成13年「京都府広域緑地計画」で、平成22年までの目標を自然公園区域の倍増並びに自然歩道等1,000kmと設定し、その一環として、平成19年に丹後天橋立大江山国定公園の新規指定及び若狭湾国定公園の拡大、その後、平成22年の環境省による新規公園候補地公表もきっかけとなり、平成28年に京都丹波高原国定公園を指定し、府域の自然公園区域が約21%に拡大した。京都丹波高原国定公園は自然と文化が融合した公園であり、府域の約15%に相当、全国で6番目の面積である。また、公園のコアになる部分には京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林がある。今年4月、公園内に地里山文化の発信として京都府初のビジターセンターを整備した。運営は、京都府、南丹市、DMO登録法人の一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会から成る協議会が担う。この公園を活用した事業例としては、放送大学と連携した「森の京都カレッジ」の開催、超小型モビリティ「MIYAMOBI」や電動アシスト付自転車の貸出、近隣施設と連携した農家民泊の受入、ガイド養成(安全管理講習、英語講習等)などがある。利用実績は、目標が年間8万人に対してオープンしてから半年で約6.5万人と順調であったが、7月の豪雨や9月の台風連続来襲のため人数は減少、冬の状況も踏まえてどこまで伸びるか注目している。
発表4「長崎県における自然公園行政の現状と課題」
田中 荘一氏(長崎県環境部 自然環境課長)
【長崎県の自然公園の概要/自然公園の利用状況及び施設整備・管理/島原半島満喫プロジェクト/課題】
長崎県の自然公園は国立公園が2つ、国定公園が2つ、県立公園が6つの計10箇所であり、離島と半島、閉鎖性海域の大村湾が非常に大きな特徴である。利用者数は、県全体の観光統計では平成19年に過去最高を記録し、その後は微減傾向にあるが、今年6月の世界文化遺産登録もあり、今後の観光客増加が予想される。自然公園整備事業の経緯をみると年による変動が大きい。平成以降で大きな転機となったのは平成9~15年の直轄・補助事業の緑のダイヤモンド計画になる。そのときに事業費が急増した。しかし、平成17年に三位一体改革を受けて事業の見直しを行い、県が直営管理する施設、県が市町に委託しながら管理する施設、指定管理者制度により管理する施設、その他施設の4つのパターン、約100施設を管理している。これは、県の面積からすると非常に多い数であり、自然公園施設のあり方について再検討が必要である。県総合計画に基づいた整備方針では、公園施設の見直しや老朽化対応を方針として定め、整備計画を進めている。また、ソフト事業としては「島原半島満喫プロジェクト」を実施し、半島内の連携強化、交通アクセスの改善、魅力的なコンテンツの創出等に取り組んでおり、島原半島が一体となった観光の推進、熊本・大分県等と連携した九州横軸周遊ルートの構築を目指している。一方、行財政改革プランと自然公園施設の見直し、厳しい県の予算状況と公共事業予算の拡充、造園技術者の育成、インバウンド対策における観光セクションとの連携、公園計画の見直し、集団施設地区における民間ホテル等の変化等が課題である。
議論
コーディネーター:中島 慶二氏(江戸川大学社会学部 教授/国立公園研究所長)
1)各発表に対する感想 2)3つの自然公園(国立公園、国定公園、都道府県立自然公園)の管理について 3)自然公園管理の財源について (文責:JTBF)