研究会活動
第1回研究会「自然歩道を考える」【2012年10月19日(金)】
東北地方太平洋沿岸地域に整備が予定されている「東北海岸トレイル」が注目を集めています。そこで、第1回自然公園研究会では、自然歩道をテーマとして取り上げ、韓国・済州島から始まったオルレの姉妹版として整備された「九州オルレ」、キリスト教の聖地を目指し巡礼者として歩く「サンティアゴ巡礼の道」、多様な要素の環境を歩く道として北海道で整備が進められている「フットパス」、環境省が計画を定めて各都道府県が整備・管理運営している「長距離自然歩道」など各地域で進められている取り組みについて、また、歩くことを中心とした旅への参加状況と意識に関する調査結果について、情報共有いただきます。これからの自然歩道を考えるうえでの情報共有・意見交換ができればと考えています。

発表1「オルレを活用した外国人誘客~九州オルレの取り組み」

李 唯美氏(九州観光推進機構 海外誘致推進部韓国担当)

【九州オルレ事業立ち上げの背景/済州オルレについて/九州オルレこれまでのスケジュール/九州オルレについて/九州オルレの課題】

韓国人が持つ「安い旅行先」という九州のイメージを払拭するため、韓国で大人気となっている済州オルレの日本版である九州オルレを立ち上げた。九州観光推進機構は社団法人済州オルレと、ブランド名・ロゴマークの使用、双方向の広報という業務提携を結び、済州オルレのブランド力を利用している。当初は上質な暮らしを求める韓国人をメインターゲットとしていたが、韓国に対しては「オルレ」というブランド力、日本国内に対しては「韓流」というイメージにより観光客誘致に成功し、地元自治体の関心も高まっている。


発表2「Camino de Santiagoサンティアゴ巡礼の道(スペイン)~寛大でスピリチュアルな道」

石山 千代(公益財団法人日本交通公社 研究員)

【Camino de Santiagoとは/巡礼者とは/巡礼路を成り立たせている5つの要素】

キリスト教三大聖地のひとつSantiago de Compostelaへの巡礼路(Camino de Santiago)は、キリスト教徒に限らずとも、何か精神的な動機によるものであれば、正式な巡礼者として認められる。何回かに分けて歩くことや、グルメな旅や文化的な関心による旅も受け入れられるなど、様々なスタイルを受け入れる寛容さがこの巡礼路の特徴である。こうした巡礼は各地の友の会によりボランティアで支えられている。多くの巡礼者の来訪による経済発展を遂げながらも、巡礼というメンタリティは保たれているという担当者の言葉が印象的である。


発表3「地域資源としてのフットパス―その多様性と可能性―」

小川 巌氏(酪農学園大学 教授)

【北海道におけるフットパスの起こりと拡大/フットパスの定義/地域をつなぐフットパス/地域別にみた主なフットパスとその目的】

北海道では2000年前後にフットパスの取り組みが始まり、住民と行政との協働体制により、急速に北海道全域に広まった。現在道内には200ほどのフットパスがあり、様々な楽しみ方と目的をもった個性ある道ができてきている。しかし、フットパスとしての条件が整備されているところは、そのうちの1~2割ほどしかない。現在、フットパス・ネットワーク北海道では、フットパスの管理団体があること、標識・コースサインが整備されていること、コースマップが提供されていること、といった3点をフットパスの暫定的な定義とし、フットパスの質を高めるために活動している。


発表4「日本における長距離自然歩道の軌跡」

阿部 宗広氏(一般財団法人自然公園財団 専務理事)

【長距離自然歩道とは/東海自然歩道―日本初の長距離自然歩道/九州自然歩道・中国自然歩道―全国長距離自然歩道網への展開/四国自然歩道―長距離自然歩道の理念、計画論の確立/首都圏自然歩道以降】

日本初の長距離自然歩道である東海自然歩道は、高度経済成長期の昭和44年に構想が発表された。自然破壊が進む中で発表された本事業は、異例の注目を集め多額な予算のもと整備がすすめられた。つづく九州自然歩道と中国自然歩道は、地元自治体の国に対する強い働きかけにより整備がすすめられた。四国自然歩道の整備の際には、研究委員会で議論が行われ、長距離自然歩道が歩くことの復権につながるという理念、路線の選定手法が確立した。首都圏自然歩道以降は、四国自然歩道の整備方法を踏襲し、そこに各地域の固有の特性への対応を加味する形で整備がすすめられた。


発表5「自然歩道と旅行者意識―地域振興に資する長距離歩道のあり方に関する研究」

吉谷地 裕(公益財団法人日本交通公社 研究員)

【「歩くことを中心とした旅や活動」への参加状況について/「歩くことを中心とした旅や活動」に対する意識/東北海岸トレイルについて】

歩くことを中心とした旅や活動への参加状況と意識に関する調査を行った。「歩くことを中心とした旅や活動」については多くの人が参加しており、関心も高まっていると言える。また、歩くことの楽しみとして、自然のみならず歴史文化、暮らし、産業なども挙げられている。東北海岸トレイルについても高い関心が見られた。近年の旅行者は、自然歩道を歩くことを通じて自然歩道を歩くこと自体を楽しむよりも、背景にある地域を構成する魅力要素(人、暮らし、歴史文化、自然等)とのつながりを求めているのではないかと考えられる。

(文責:JTBF)