研究会活動
第2回研究会「国立公園のブランドを考える」【2013年1月9日(水)】
国立公園は、日本国民にとってどのように認識され、どのように利用されているのでしょうか。今回の研究会では、国立公園のブランドに焦点を当て、欧米の国立公園におけるブランディング戦略やプロモーションの取り組み、日本国民の国立公園に対する意識と現状、日本の国立公園の魅力向上について情報提供いただきます。国立公園全体としてのブランディング、国立公園というブランドの有効性等について情報共有・意見交換ができればと考えています。

発表1「アメリカの国立公園におけるブランディング戦略」

熊谷 嘉隆氏(国際教養大学教授・国際連携部長・地域環境研究センター長)

【アメリカ国立公園局/National Park Serviceとしてのアイデンティティとイメージ構築/Stewardship の醸成と各国立公園の独立性/シンボルとしてのロゴと商品開発】

アメリカの国立公園局(National Park Service)では2005年より、利用者満足度と自然保全の両立強化、歴史遺産の活用、場所のブランディング、公的機関としての立ち位置強化というブランディング戦略を行っている。また、一過性の訪問者ではなく公園の支援者を育成することを狙って、国立公園の年間パスポート購入を積極的に働きかけている。ブランディング戦略は主として各公園が独自に実施しているが、これには地域住民と合意形成をしたうえで効率的に進めたいという連邦政府の狙いがある。こうしたブランディングの際にシンボルとしてのロゴは非常に有効である。Golden National Recreation Areaではエリアとしてのアイデンティティに欠けていたが、デザイン会社と協力して統一ロゴを策定したことで、地域住民の認知度も高まった。


発表2「イギリス、フランス国立公園のブランドとプロモーション」

源氏田 尚子氏(環境コンサルタント)

【国立公園とブランド/ブランドのメリット/イギリスの国立公園の概要/イギリスの国立公園のブランド・プロモーション活動/フランスの国立公園の概要/フランスの国立公園のブランド・プロモーション活動】

国立公園ブランドとは、公園管理者等が事業やサービスを今後どうしたいのかという戦略やビジョンを背景に、今後利用者にどう思われたいかという目標(ブランド・アイデンティティ)を設定し、職員と利用者で一緒に作っていくものと捉えている。イギリス・フランスの国立公園について、シンボルマークの有無、ブランドアイデンティティ、ブランドの定着度合い、プロモーション内容、プロモーションターゲット、プロモーション組織体制、について調査を行った。ブランド化プロモーションについては、フランスはブランドマークの統一など国立公園全体として行っており、イギリスは各国立公園単位で行っている。プロモーションツールとしては、ツイッターやFacebookなど双方向のコミュニケーションが増加している。情報提供の際はターゲットを明確にし、プロモーション専任の組織をおいている。


発表3「日本国民にとっての国立公園利用の意識と現状―日本国民は国立公園をどのようにとらえているか―」

安達 寛朗(公益財団法人日本交通公社 主任研究員)

【国立公園の認知状況/国立公園の利用の概観/世界自然遺産との比較】

日本の国立公園の存在を知っている人は8割を超えているが、10年前と比較すると低下しており、若年層では顕著に低くなっている。性別では、女性の認知度がより低い。「国立公園」という言葉は、「国立公園」の定義を知っていると旅行意向を喚起する傾向があるが、世界自然遺産と比較すると世界遺産の方が旅行意向の喚起力が高い。国立公園は利用面はよくイメージされているが、保全面については世界遺産の方がよくイメージされている。国立公園旅行をよくする人でも、その旅行における国立公園を目的とする比率はあまり高くない人も多い。国立公園を目的とする比率が高かった人は、泊数が長い一方で活動内容が絞られている。また、必ずしも国立公園の定義を知っているわけではない。


発表4「日本の国立公園の魅力向上」

澤野 崇氏(環境省自然環境局総務課自然ふれあい推進室自然教育係長(国立公園魅力向上チーム長))

【平成23年度関係者の協働による国立公園魅力向上方策検討調査/公園事業に関する施策検討調査/国立公園の利用ニーズ等調査/平成25年度日本の自然を生かした地域活性化推進事業】

環境省では平成23年度に「国立公園魅力向上方策検討調査」を行った。このうち公園事業に関する検討調査では、国立公園の利用拠点の公園事業者は厳しい経営状態にある、国立公園は地域や事業に対する「制約」と「価値づけ」の両面で捉えられている、公園事業者は国立公園をもっと国民にPRすることを望んでいる、公園事業者は経済的支援を強く求めている、という結果が出た。国立公園の利用ニーズ等調査では、ガイドブックにおける国立公園に関する記述は少ないこと、旅行商品として国立公園は「魅力」や「売り」になっておらず、体験プログラムの充実が求められていることが分かった。平成25年度には「日本の自然を生かした地域活性化推進事業」が実施される予定で、戦略的な情報発信や、ジオパークと国立公園の連携などが行われる。


議論

コーディネーター:土屋 俊幸氏(東京農工大学農学院教授)

日本と欧米の国立公園制度の違い、中央集権的ブランディングと個別的ブランディング、国立公園というブランドの有効性等について質疑応答がなされた。

(文責:JTBF)