研究会活動
第13回研究会「民間の力を活用した自然公園管理のあり方を考える」【2019年2月22日(金)】
国が推進する国立公園満喫プロジェクトなどにより、民間の力を活用した国立公園管理に注目が集まっています。そこで、今回の研究会では、海外の国立公園における民間活用の事例や都市公園における民間活用の状況などについて、情報共有いただきます。これからの民間の力を活用した自然公園管理を考えるうえでの情報共有・意見交換ができればと考えています。

発表1「地域制自然公園と民間活力導入政策」

土屋 俊幸 氏(東京農工大学大学院農学研究院 教授)

【日本における民間活力導入政策/指定管理者制度/PFI法/自然資源の活用/地域性自然公園/公園計画】

日本における民間活力導入の流れは、1980年代の臨時行政調査会、臨時行政改革推進審議会に始まる。財政再建・行政改革によって公共事業費が抑制されたこと、経常黒字の急拡大・欧米との経済摩擦の深刻化により内需拡大が迫られたことから、財政負担なしに社会資本の整備を行う手法として、民間活力の活用が浮上した。1990年代は民間委託が推進され、1999年にはPFI法が成立し、公共施設等の建設・維持管理・運営等を民間の力で行うことによる効率化・サービス向上が目指された。2000年代になると、小泉改革において自然公園関係の三位一体改革、指定管理者制度の導入がなされた。2011年にはPFI法改正によるコンセッション方式導入により、公共施設等の運営権を民間が得られるようになる。2012年以降は、内閣府規制改革推進会議で自然資源系の民間活力導入について、また首相官邸の未来投資会議で「公的資産・サービスの民間開放」「地域における生産性革命」等について議論され、民間活力が推進された。最近では『成長戦略』の目玉達成のための手段として、水道事業や漁業権、国有林等への民活導入、そして国立公園満喫プロジェクトと、様々な自然資源について民活政策が進められている。翻って欧米の地域制国立公園を見ると、民間活力の活用は大前提であり、殊更に政策として位置づけられるものではないが、開発は地域の利害関係者の合意によって策定される公園計画に沿って行われるため、特定の事業者が優先的、あるいは優遇されて参入するということは考えにくい。日本の自然資源における民活政策は『成長戦略』を重視しており、政治色が強いということを認識した上で、合意形成を行いながら民間活力を取り入れるのが肝要だ。地域制自然公園においても、生命線である計画策定を、広範な関係者の参加により確実に行うことが民間活力導入の前提だと考えている。


発表2「アメリカの国立公園におけるコンセッション」

熊谷 嘉隆 氏(国際教養大学アジア地域研究連携機構 機構長/教授)

【コンセッション/アメリカの国立公園システム/民間活力導入/コンセッションの経済効果】

国立公園システムの総数は417で年間訪問者は約3億2千万人、国立公園数は61で年間訪問者は約6千2百万人である。2011年の調査によると、国立公園システム全体の経済波及効果は、約3兆1千億円であり、うち約1兆4千億円が半径100km以内の地域への直接還元である。また、2011年の3億2千万人の公園訪問者による消費額は1兆9千億円であり、これにより約30万6千人分の雇用が創出されている。来訪者数は1979年から2015年で62.8パーセント増加した。アメリカの国立公園システムが人気である理由としては、高いブランド力、外郭支援団体による充実したサポート、入園料の徴収による運営予算確保、そしてコンセッションが挙げられる。コンセッションにおける法的バックアップとしては、国立公園局の創設と各種サービス提供業者との委託及びリース契約が明記された1916年制定のNational park service Organic Act、受託業者の契約更新等に関して明文化した1965年制定のコンセッション法、受託業者の運営改善や入札における競争原理の導入に関して記載した1998年のコンセッション管理改善法がある。コンセッションによる総売上の5%が各公園の運営費となる。2016年は総売上額が約1,500億円で、約25,000人の雇用が創出された。コンセッションによって提供されているサービスは宿泊、飲食、物品販売、用具レンタル、輸送、各種プログラム等多岐にわたる。入札にあたっては国立公園局の評価パネルが公園資源の保全、提供するサービス、業績・経験、資金力、フランチャイズ料、環境対策等の観点から審査し、公園特性に則って質の高いサービスを提供できる者が受託している。また、各事業者は運営報告書を毎年提出している。コンセッションによってサービスが高水準になることにより、利用者満足が担保されている。このようなアメリカの国立公園システムにおける民間活力導入の事例を、法体系・歴史・社会的背景が異なる日本ではどのように参考にし、取り入れるべきかを議論する必要がある。


発表3「都市公園法にもとづく公募設置管理制度(Park-PFI)と推進支援ネットワーク(PPnet)について」

橘 俊光 氏(一般社団法人日本公園緑地協会 常務理事 兼 公園緑地研究所 副所長)

【公募設置管理制度/Park-PFI/PFI法/都市公園法/都市公園における民活導入】

Park-PFIは、行政と民間が連携して互いの強みを生かすことで最適な公共サービスの提供を実現し、地域の価値や住民満足度の最大を図るPPPの中に位置づけられるものである。PFIとは、PFI法に基づき、公共施設等の建設、維持管理、運営等に民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することで、同一水準のサービスをより安く、あるいは同一価格でより上質なサービスを提供する手法である。都市公園においては、ストックが増加し施設老朽化・魅力低下が起きている一方、財政制約等から公共の力による整備に限界があるという状況に対処するため、平成29年に都市公園法が改正され、民間活力による新たな都市公園の整備手法を創設し、公園の再生・活性化を推進する公募設置管理制度(Park-PFI)が設置された。Park-PFIとは、都市公園において飲食店、売店等の公園施設の設置又は管理を行う民間事業者を公募により選定する手続きであり、事業者が設置する施設から得られる収益を公園整備に還元することを条件に、事業者には都市公園法の特例措置がインセンティブとして適用されるというものである。Park-PFIのメリットとしては、公園管理者においては財政負担の軽減・公園サービスレベルの向上、民間事業者においては長期的視野での投資・経営が可能になること、また収益の向上につながる質の高い空間を創出できること、公園利用者にとっては利用者向けサービスの充実、公園の利便性・快適性・安全性の向上が挙げられる。また、公共団体と民間事業者のマッチングを図るPark-PFI推進支援ネットワーク(PPnet)というサービスにより、Park-PFIが推進されている。都市公園において民間活力・資金等を導入するにあたっては、公園管理者と民間事業者が対等な立場で意思疎通しながら、利用者側の目線に立ち、コンセプトを明確化し、変化に対応しながら継続的に事業を進めることが重要である。


議論

コーディネーター:愛甲 哲也 氏(北海道大学大学院農学研究院 准教授)

1)「地域制自然公園と民間活力導入政策」土屋 俊幸氏

    • ・計画の実行には規制、誘導、事業の実施という3点が重要だと思うが、従来の自然公園では規制が中心的であったと思う。民間事業の場合、認可と実行をどう考えていくかが問題になる。その際の誘導を考えるにあたり、たとえばカーボン・オフセットのような議論を自然公園の中でどう考えるか等、法の面で民活を検討する余地はありうるのではないかと思っている。また、地域制国立公園の重要な利用拠点である集団施設地区について、現状では十分に検討されていないため、議論の必要があると考えている。

    2)「アメリカの国立公園におけるコンセッション」熊谷 嘉隆氏

      • Q.事業を実施するための建物はどのように調達されるのか。
      • A.建設するために入札が行われる場合もあれば、既存の建物を使用する場合もある。

      • Q.コンセッションの期間は事業ごとに決まるのか。
      • A.宿泊業は3~5年、用具レンタルやプログラムは1年等、業種によって異なる。

      • Q.575の事業者のうち60事業者が大半の売上げを占めるとのことだが、どういった事業者なのか。たとえば、地域の事業者が関わっているのか。
      • A.たとえば宿泊業の事業者等は、全国規模の大企業が多い。地域の事業者は用具レンタルやプログラムの提供等を行っていると思われるが、あまり多くはないようだ。

      • Q.多様な分野でコンセッションが進められているとのことだが、コンセッションに適さない業務はあるのか。
      • A.たとえば宿泊では、多くのキャンプ場を国立公園局が直接管理している。公園計画によって差がある。

      • Q.ボランティアに対してはどこまでフォローされているのか。
      • A.勤務地までの交通費や保険は自弁だが、公園内での宿泊・食事等はサポートされる。

      3)「都市公園法にもとづく公募設置管理制度(Park-PFI)と推進支援ネットワーク(PPnet)について」橘 俊光氏

        • Q.全国的に、PFIの取組はどのような状況なのか。
        • A.Park-PFIは約200団体で検討されているようだが、実際に公募段階までいくのは40、50程度という状況である。まずは主要な都市で進められており、それ以外の地域での議論はあまり動いていない。

        4)アメリカンのコンセッション、都市公園のPark-PFIにおいて、民間事業者を入れることで生じている問題はないか。

          • ・民間事業者は来訪者を増やし稼ぐことを重視する一方、公園側は資源管理・保全に重きを置くため、その点でのバッティングはどの公園でも起き得る。ただし、外郭団体が事業者と公園の中間に位置しており、両者を仲介する役割を担っている場合が多い。それぞれが折り合いをつけて事業を進めているのが現状ではないか。
          • ・ミッション66というアメリカ国立公園設置50周年記念事業において、それを目処に施設の更新を行っていた関係で1980年の法改正が行われた。80年代にコンセッションの難しさが認知され、90年代に見直したのが98年の改正である。また、コンセッションが成り立っているのは全体の一部であり、実は行っていない公園も多い。
          • ・都市公園においては、たとえば戦後にある事業者に設置管理許可をさせたものの、更新がきちんと行われず不法に継続したため、公園協会が管理をすることになったが、やがて経費削減やサービス向上のため民間事業者に委託するようになり……というような状況があった。公園協会等による営業が成り立たなくなり、民間事業者を入れるという事例が多くある。
          • ・昔から多くの事業者が国立公園に入っており、それを整理しようとした時期が過去にあったと思うが、その時と今は何が違うのかを考える必要がある。たとえば前期に政府の融資でできた各地のリゾートホテル等は今の民活と同様であるが、その多くが地域のフラッグ的なホテルとして残っている。こういった事例について改めて評価するべきではないか。

          5)一方で、ホテル等の廃屋が様々な国立公園で課題になっている。都市公園では、建物の更新や事業者が交代する際の権限等はどのような状況か。

            • ・設置期間を区切り、撤去費用を事業者持ちとする、あるいは撤去費用を事前に預かり金とする等、撤去にかかる内容も公募の条件としている。
            • ・アメリカでは、1965年のコンセッション法に撤去について明記されている。たとえば建設事業に入札する際は、改築撤去も含めて事業者が対応する。国立公園内の建物を貸す場合は公園局が対応する。

            6)アメリカのコンセッションにおいて、一年ごとに収支報告書を提出するとのことだが、どのように評価されるのか。

              • ・国立公園局の評価パネルメンバーが毎年レビューを行う。各公園の目的から逸脱されていないサービスが提供されているか、利用者の不満はないかといった点が評価される。パネルメンバーは所長とコンセッション担当者で構成される。

              7)都市公園で公募設置管理を審査する際の選定委員会はどのようなメンバーなのか。

                • ・造園・公園の専門家、ソフト系の専門家、公認会計士・税理士、地域の団体代表等が挙げられるが、状況によって異なる。
                • ・イギリスの地域制立公園は公園管理計画が先にあり、それに応じて土地利用計画を決めているため、民活をあとから取り入れるのではなく、もともと民間事業がそこで行われているという状況だと思う。
                • ・イギリスの管理計画の中には、たとえば地域固有の羊の飼育数を増やす等、地域の協力がなければ目的を達成できない内容が盛り込まれている場合がある。その際は自治体、地域の観光協会、商工会議所等が入るパートナーシップ会議を設け、議論しながら進める形になる。公園によっては、駐車場や道路、サービス施設等ハード面を整備するという旨は管理計画に盛り込まれているが、日本のように国の公園事業計画があるのではなく、市町村が開発許可を出すという形になっている。
                • ・都市公園では、国の緑の基本計画を踏まえ、各都市がそれぞれ公園のコンセプトを明確に民間事業者へ伝えるのが重要である。たとえば名古屋市では、公園運営計画で各公園大きな目標を定め、それを踏まえて個々の事業を進めている。このように、民活導入において、どういう形を目指すのか管理者と民間事業者が共有する必要がある。

                8)本の場合は、環境省所管の地区ではコンセッションを取り入れられるが、それ以外の場所ではできないのではないかと考えている。アメリカにおいて、国が所有権や地上権を持たない場所でコンセッション制度が取り入れられている場所はあるのか。

                  • ・アメリカの場合、コンセッションを行う土地は公園局の所有となっている。民間事業者が建設した建物は業者に属し、土地は公園局に属すという立て付けになっている。

                  9)民間事業者が入った場合、公園の魅力向上を図れる一方で、たとえば利益を出すためにサービスの価格設定が高くなる等、公共性が失われたり、自然の保全という本来の目的と乖離したりする場合もあると思うが、どうか。

                    • ・前提として、アメリカの国立公園局は、民間事業者に利用者への適切なサービス提供と、国立公園内の各種資源の保存・保全の双方を求めている。アメリカの国立公園では訪問者満足度の向上がマネジメントにおいて重視されているため、それを達成する手段としてコンセッションが行われているという理解である。アメリカの国立公園で提供されているプログラムの中には価格が高いものもあるが、質の高いサービスは高価であるという市場原理によるものであり、公園局も許容している。
                    • ・ソフト事業は自然公園法の対象ではないため、環境省所管地でその権限で以って制限をかける以外に規制する方法がない。しかし、環境省の土地は狭いため、コンセッション制度を導入してプログラム提供するというのは難しい。
                    • ・環境省所管地では唯一、平成の森で有料プログラム提供を行っている。それ以外では、利用調整地区である知床で利用者コントロールのためにガイド付きツアーを行っているが、国有林との調整は難しい。屋久島や小笠原等、自治体レベルでプログラム認定する仕組みは既にある。満喫プロジェクトは、規制というよりは推奨プログラムを認定するというような、誘導的なやり方であり、補助金を出すこともありえる。
                    • ・民間企業の寄付によって活動している自然保護団体というのも一つの民間活力の活用のあり方だと思う。
                    • ・公園事業制度や施設については法整備ができているが、ソフト事業に関してはどのような形がよいか、また、コスト意識の強まる中、自然公園におけるよりよい民間活力導入の形とは何かを議論する必要がある。
                     

                    (文責:JTBF)