研究会活動
第3回研究会「自然公園の利用者調査を考える」【2013年5月27日(月)】
自然公園の適正な利用のあり方を考えるためには、利用者数(数)や利用者動向・意識(質)を定期的に把握することが重要です。しかし、これまでの利用者調査は課題に対応する形でのアドホック調査が主流であり、モニタリングという観点からは議論すべき課題も多いのではないでしょうか。そこで、今回は、自然公園における利用者調査の重要性、利用者調査の方法論、日本における利用者数調査及び利用者動向・意識の現状、国内外における利用者調査の事例について情報提供いただきます。利用者調査のあり方や調査結果の活用方法など、様々な視点から意見交換できればと考えております。

発表1「自然地域における利用者調査の重要性」

小林 昭裕氏(専修大学 経済学部 教授)

【公園利用がもたらす影響を踏まえた実態把握/登山道整備における『用』と『美』、それを取り巻く環境と文化/質の高い利用を実現するための統合的管理の構築】

自然公園の利用調査の目的は、利用実態そのものの把握、利用行為が自然環境に与える影響の把握、利用が利用体験に及ぼす影響の把握、管理行為が利用実態・自然環境・利用体験に与える影響の把握、に大別される。自然公園の利用調査手法は、それぞれの調査目的により様々な手法が展開しているが、調査目的にあわせて適切に選択する必要がある。また、調査手法の標準化を行うことで多くのデータの比較検討が可能になる。利用者満足度は、利用者の期待値と現実への評価との比較により決定される。このため質の高い利用を実現するためには、利用者満足度における期待と現実とのバランスも重要である。


発表2「利用者動向・意識調査の現状と海外の事例」

五木田 玲子(公益財団法人日本交通公社 研究員)

【国内の自然公園における利用者動向・意識調査/海外の自然公園における利用者動向・意識調査】

平成23年度に行った「自然公園利用者意識調査」では、同一の調査手法で実施したことにより各公園の利用面での特徴を明らかにすることができた。また、統一的調査により経年・地域比較が可能となることで、重要な情報が得られることも明らかになった。平成24年度の「国立公園における『利用者数調査』及び『利用者動向・意識調査』に関する実態調査」では、数だけでなく質の調査が必要とされていること、また、調査実施にあたっては予算、人手不足、信頼性等の課題があることが分かった。一方、海外ではノルディック・バルチック諸国の利用者調査マニュアルのように、共通マニュアルを作成し、統一的な調査手法により調査を行っているところもある。


発表3「利用者数調査の現状と海外の事例」

愛甲 哲也氏(北海道大学大学院農学研究院 准教授)

【利用者数モニタリングの意義/自然公園利用者数把握の実態と課題/新しい計測手法】

記述されていない事象は政策的に取り上げられない傾向があり、そこに利用者モニタリング調査を行う意義がある。日本国内での利用者モニタリング調査は、不定期に実施される調査結果の利用、各都道府県や各市町村での調査をまとめたもの、入山名簿等により行われてきており、十分信頼できるデータが不足している。既存のカウンターは信頼性や耐久性に課題があったが、今は調査機器の選択肢も増えてきた。利用者数調査の手法は、環境や利用状況、目的にあわせて十分な比較検討の上選択することが大切である。実測調査とのキャリブレーションも必要となる。他の分野と異なる専門的知識の集積・人材育成も必要である。こうして得られた調査結果の活用事例の集積とその発信を行うことで、よりよい調査手法へと発展することが望まれる。


発表4「利用者意識調査の方法論」

庄子 康氏(北海道大学大学院農学研究院 准教授)

【意識調査の方法論上の課題/意識調査とその学習/意識調査に対する理解不足/サンプリングと調査手法/現地調査への偏重/基礎的調査の導入/最新の調査手法/BWS(ベスト・ワースト・スケーリング)/選択型実験】

意識調査には学習不足による誤解がある。意識調査には限界があると理解することで、調査結果を冷静に解釈し適切に利用することが可能になる。また、日本の意識調査は現地調査に偏る傾向があり、公園の訪問者が自然環境に影響を与えている場合訪問者の声のみを拾うことが適切かという問題、将来予測・需要予測が的確にできないという問題が生じている。一般市民向けのサンプリングも重要視し、適切に使い分けることが必要である。また、近年意識調査の方法論は進展している。BWSという手法では、「良い・悪い」「好き・嫌い」だけでなく、どれだけ良いのか、あるいはトレードオフできるのかどうかを知ることが可能で、より適切な施策につなげることができるようになっている。


発表5「利用者調査データの活用―知床国立公園の事例より―」

野川 裕史氏(環境省上川自然保護官(前ウトロ自然保護官))

【知床五湖の利用のあり方協議会/「順応的管理」~目的達成のために/多様な主体による課題解決/合意形成に不可欠な「情報」/データの解釈は時と場合】

知床では、「知床五湖の利用のあり方協議会」を組織し、多様な主体の協働のもとで知床五湖の管理を行っている。管理はPDCAサイクルに基づいて行われるが、あらゆる段階においてモニタリングで得られた利用者調査データが活用されている。知床のように多様な主体により管理が行われている所では、モニタリングに基づく客観的な情報は、合意形成の為に不可欠となる。調査データは説得までいかないこともあるが、合理的らしく説明することが可能となり、議論を行う上での前提を設定する上で非常に重要となっている。データのとらえ方は人により異なるため、考え方を示す目安としてのデータでも十分有効となる。また、新制度構築の際の不安を抱えた状況で、データが試行錯誤前提での検討素材となる。


議論

コーディネーター:愛甲 哲也氏

BWSの紹介、利用者調査の意義、調査標準の必要性等について質疑応答がなされた。

(文責:JTBF)