報告1「自然公園財団からの報告」
斎藤 直樹氏(一般財団法人自然公園財団 事務局次長)
自然公園財団は、国立公園の公共駐車場利用者からの徴収金をもとに、園内管理、美化清掃、自然ふれあい活動を実施する団体であり、北海道の知床から霧島の高千穂まで20の事業地で活動を行う。新型コロナウイルスの流行に伴い、国立公園の現場で何が起きているか、全国の現状を報告する。
4月中旬から5月14日を中心に、15の国立公園の21地区の利用拠点での入込状況について各地のスタッフにヒアリングを行い、2019年と比較して9割以上減を赤色、7~8割減を黄色、5~6割減を緑色、それ以下の減少を薄い青色として、レベル別に色を分け表に示した。2月28日に北海道で緊急事態宣言が出ると、北海道では黄色、赤色となった。4月16日に緊急事態宣言が全国に拡大されると、駐車場やビジターセンターも閉鎖され、全体が赤色になった。5月14日の7都道府県以外の宣言解除後も特に北の方で入込は回復せず、感染者数の大小が地域差に反映されている。6月19日以降、県境をまたぐ移動も可能となったが、依然として事業的には厳しい状況が続いている。
この間、新聞でも、6月12日の読売新聞、6月23日の日経新聞で取り上げられ、全国に報道された。
自然公園財団の感染防止対策としては、ビジターセンターでの換気、アルコール消毒や足跡誘導サイン、カウンターへのビニールシート設置等、一般的なことは全て行っている。
今後の動向について、オープンエアーな環境であること、優れた景観を有することという国立公園の強みを生かして国内需要を喚起できないか考えている。6月12日には、福島県の浄土平がTwitterで話題となり、6月21日には駐車場も満車、道路も渋滞ができるほど多くの人が訪れた。このことから、国立公園にもまだ可能性が十分にあると実感した。
報告2「大雪山国立公園からの報告」
桝 厚生氏(環境省大雪山国立公園管理事務所 国立公園保護管理企画官)
大雪山国立公園では以前から、登山道の荒廃、体験型利用の促進が課題にあった。その解決のため、大雪山国立公園連絡協議会(環境省、北海道、地元の市町で構成)に加え、他の公的機関、民間団体、観光協会、交通事業者、研究者等が連携できるよう、6月8日付で合同型管理体制を構築した。あわせて「大雪山国立公園ビジョン」を策定し、新たな協働型体制のもと、管理運営計画の作成、携帯トイレの普及、協力金の仕組み形成を進めている。
今回の新型コロナウイルス感染症流行下で、登山者へ対策を促す「新型コロナウイルス感染症注意マップ」を作成した。6月末の登山シーズン到来を前に、山の利用がどのようになるのか、国立公園としての見込みをどのように発信するかに関して関係者や内部で声があがった。5月から6月頭にかけて、大雪山国立公園連絡協議会の登山道維持管理部会の取り組みとして何ができるかを考え、構成員に現状を尋ねるアンケートの実施、オンライン会議による意見収集を行った。国立公園でもしっかりと情報発信を行うべきという意見を反映し、注意マップの作成に至った。
注意マップの内容としては、登山者が自己責任で来訪することを前提に感染拡大防止を促す情報を掲載した。統一性のある写真やイラストで全山の実際の状況や密集しそうな場所を予め提示し、登山者自身の気づきや事前の予防策実行を促すこと、2015年作成の「大雪山グレードマップ」を改めて普及することを意識した。
新型コロナウイルス感染症に関して国立公園全体として積極的なメッセージを発信する公園は多くはない。その背景には、環境省の役割が自然公園法に基づく制度の運用にあり、基本的には“不認可”を適切に運用すれば成立するという意識や実態がある。また、直轄施設は個別で管理を行うため、情報発信も施設単位にとどまる。しかし今回、地域や山岳関係者からは、国立公園としての情報発信を求められ、大雪山国立公園連絡協議会という枠組みと「注意マップ」作成の取り組みがその役割を担った。感染症に限らず、大きな社会変動下では、営造物公園のような一元的管理者としての情報発信が求められるようになる。多元的な管理者を有する国立公園では、構成員の情報を取りまとめる存在、すなわち連絡協議会のような評議会や公園管理団体の重要性が高まると思われる。
報告3「阿蘇くじゅう国立公園からの報告」
田村 努氏(環境省阿蘇くじゅう国立公園管理事務所長)
阿蘇くじゅう国立公園では、従前から国立公園満喫プロジェクトの展開として、①魅力的な景観の演出と利用による保全の強化、②これまでにないアクティビティの開発と施設整備、③利用環境の改善、④2016年に発生した熊本地震等からの創造的復興、⑤以上4つの取り組みを海外に広く発信することという5つの方向性に基づきインバウンド対策を進めてきた。その結果、訪日外国人国立公園利用者数は2015年の68万人から2020年度には75万人と増大した。
一方で、訪日外国人利用者の大半はアジア圏であり、同市場の社会情勢に大きく左右される構成になっていることが課題である。例えば、阿蘇くじゅう国立公園で最も利用者が多い場所の一つである草千里の駐車場は、例年GWには満車となり渋滞も発生するが、今年は利用がほぼなかった。
コロナ禍においては、熊本県が緊急事態宣言を解除した5月14日以降、感染症対策を取り入れた各種取り組みを行っている。南小国では景観の優れた場所を貸し切りとし、プレミア感を付与したプログラムを提供している。飲食店ではスペースに余裕のある横並びの席と、優れた景観を楽しめる食事をパッケージ化して提供している。このほか、九州管内の需要触発を企図した宿泊費補助制度、対面接触を回避した地域特選品のネット販売の展開、「顔パス」認証システムの構築などを行う。
コロナ後の復興を考える際は、地元住民が観光をどのように考えているかという点がポイントとなる。観光業以外の地元住民は感染者数が多い都道府県からの訪問者への嫌悪感を拭えていないのが実情である。観光客を受け入れる観光事業者だけが「我々の提供する観光は安全である」と発信するだけでなく、観光客受け入れがどの程度重要か、地元住民にも十分に理解されなければ今後の観光は成り立たないと思われる。
報告4「環境省国立公園課からの情報提供」
三宅 悠介氏(環境省自然環境局国立公園課課長補佐)
令和2年度補正予算を活用して進めている取り組みについて紹介する。
第一のメニューは、国立・国定公園への誘客推進と、それによる地域の雇用維持・確保を行う事業であり、大きく2つの内容を想定している。一つは、地域のガイド事業者、DMO、地域協議会等を対象として、コロナ収束後に提供できる魅力的な新規ツアーの造成や誘客のための企画、歩道の修繕や清掃といった事前準備を行う事業について、定額または1/2の補助を行うものである。特にワーケーションとの連携が見込まれるもの、アドベンチャーツーリズム、サスティナブルツーリズムに関係するものについては重点的に支援することを想定している。もう一つは、造成されたツアー等について、国内外に向けた緊急的なプロモーションを実施するものであり、環境省が直接執行する。
第二のメニューは、国立・国定公園および温泉地でのワーケーションを推進する事業である。具体的な枠組みはソフト面とハード面の支援で構成される。前者は、上限300万円までの事業費を全額補助するもので、ワーケーションツアーの企画や実施のための準備等を想定する。後者は、事業費の1/2または2/3を補助するもので、リモートワーク推進を目的としたWi-Fiの導入、ワークスペースの改装等を想定する。
観光庁発表の『新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響調査』で指摘された通り、旅行業界は7月以降も極めて厳しい状況が続くことが見込まれる。「ワーケーション」に対する地方自治体側の期待は高く、2019年11月に設立された「ワーケーション自治体協議会」には、2020年5月末時点で87団体が加入し、統一的な情報発信や共同PR等を行っている。ワーケーションのうち、特にバケーションの面で国立・国定公園はすぐれた魅力を有する地域であると考えられる。先進事例の一つとして、妙高戸隠連山国立公園の近隣にはNomad Work Centerという最先端のワークスペースを備えた施設が整備されている。ワーケーション滞在モデルとして、同センターで仕事をしつつ、合間に国立公園内外での自然体験アクティビティを挟み、宿泊は信濃町内の施設を利用するといったプランが提示されている。これまで国立・国定公園が取り組んでこなかった新しい利用について、この機会に考えていければよいと思う。
質疑応答
コーディネーター:愛甲 哲也氏(北海道大学大学院農学研究院 准教授)
1)「コロナ収束後の回復について」斎藤 直樹氏 2)「コロナと協働型管理について」桝 厚生氏 3)「地域の理解と管理について」田村 努氏 4)「ガイドの使用言語について」田村 努氏 5)「施設の予約制について」桝 厚生氏 6)「国立公園と暮らしについて」三宅 悠介氏 (文責:JTBF)